第7章 帰路
その後、私に何か悪いことが起こることもなく、ましてや死神にもう一度会うこともなく、無事に帰路に着いたのだが。
一人暮らしの家に帰ってきた私の視界に、またもやあの蛇が居座っていた。
「おお、お帰り。今日は早かったな」
着物を着た一見人間に見えるこの男性……MENさんの守護霊であった。
MENさんの守護霊、通称白蛇さんは、あることをきっかけに、こうして私の家に勝手に上がり込んでいることが度々あった。
正直白蛇さんは幽霊なので勝手に上がり込んでいてもいいのだが、勝手にテレビを点けていたり電気を点けていたり、挙句の果てにはお風呂まで入っているから困る原因ではあった。
「風呂入れて置いたぞ。いつでも入れる」
「あのですねぇ……」
白蛇さん、今日はお風呂に入っていたらしい。白蛇さんから入浴剤の香りが思い切りする。
「まぁまぁ落ち着け。今日はワシがいて有難いと思っておっただろう?」
と白蛇さんが言いながら黄色い目をちらりと私に向ける。
私は心境を見抜かれたみたいでドキリとした。今日私に何が起きたのか知っていたみたいだ。
「とにかく、着替えますから向こう行ってて下さい」
私は悟られないように寝室に行こうとすると、白蛇さんがズバリ言い切った。
「死神はもう来ないぞ」
「え……」
私は振り向いた。白蛇さんは人間とは思えない程大きな口でニタリと笑った。
「あの死神は霊界のミスでな、つまり運が悪い人間に行きやすいのだ」と白蛇が淡々と語る。「つまりあの死神は事故だ。近くにおった者の守護霊が強かったから助かったってところだな」
「やっぱ、あの人たちは守護霊が強いんですか?」
思わず質問をすれば、白蛇さんは先端が二又に裂けた舌をチラつかせた。
「話してやろう。まずは着替えてきなさい」