第6章 *怒涛の展開*
「なんでだよ?」
玄関で靴を履いた光莉に不満そうな声で問いかける一。
「なんでって...、荷物は同僚の家だし外泊するわけにはいかないよ」
それに、一も自分も明日は仕事だ。
寝ずに仕事がこなせる程若くはないので、帰ることにしたのはいいが一の機嫌がすこぶる悪い。
ムスッとした一の言いたいことは分かるが、社会人としてそれに流されるのは不味い。
「次の休みにまた来るから、仕事頑張ろうよ」
「...次って1週間後じゃねぇか」
子供か。と思わず心中で突っ込んでみたが光莉だって会いたくない訳では無い。そもそも付き合っていないのに居候していたこと自体が異常だっただけで、世の中の恋人なんてこんなもんだろうと光莉は思う。
まぁ、恋人居たことないから知らんけど。
「それじゃ、また1週間後ね...っわぁ!」
「気を付けて帰れよ。送ってやれなくて悪ぃな...」
後ろに引っ張られたと思ったら一の腕の中にすっぽりと収まった。あっという間のことに光莉は何が起こったのか分かるまで少し時間がかかった。
どわぁぁぁあ!!?
所謂バックハグの状況だと分かった瞬間、光莉の顔は一瞬で真っ赤になる。元々色事に免疫のない自分に情けなくなりながらもかろうじて叫ぶことがなかったのは自分を褒めたいところだ。
「し、仕方ないって分かってるから大丈夫...!一に変な噂立つのは私も嫌だし」
「...なるべく早くここに戻れるようにする」
「いや、付き合ってるって知られるのも良くないのにわざわざバレるようなことしてどうすんの」
そう、一は若くして会社を立ち上げ成功した起業家として雑誌やメディアに取り沙汰されている人間。良い話より悪い話のほうが世間の関心を集めやすいため、スキャンダルは格好の餌食になる。
つくづく住む世界が違うのだと思い知らされるばかりだ。
「あくまで家政婦として通すんでしょ」
「割り切ってんなァ...、いっそ既成事実作っちまえば話は早ぇのによ」
「きっ!?何言って...!?」
背後から呟かれた衝撃的な言葉に光莉は身の危険を感じて慌てて離れたが、振り向いて目にしたのは不敵な笑みを浮かべる一。
「お、お手柔らかにって言ったよね!?」
「努力するって言ったよな?」
質問に質問で返され光莉は更に戸惑う。