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【東リベ】捨てられた猫【九井一】

第5章 初心者マーク



追い出したくせに

光莉の口からその言葉が出た時、一は己の身勝手さにハッとした。勝手に誤解して勝手に怒り、挙句の果てには行く所がないことを知っていて追い出した。

「怒って当然だよな」

「会長、声に出てます」

静かに走る車の中で秘書がピシャリと窘める。
一は信頼できる者しか周囲に置かない、勿論運転手も自分で選別し長年勤めてくれている人物だ。

「車の中だぞ、別に問題無ぇだろ」

「何があるか分からないのですから、問題になりそうな発言には注意して頂かないと」

ただの一般人ならば誰も気には留めない言葉でも、一にとっては命取りになることもある。会社を立ち上げ、有名になればなるほど一の生活は窮屈になるばかりだ。
信頼できるのか出来ないのか、その判断を繰り返す中で疲れていた。そんな時に出会った光莉は新鮮だった。

腹の中を探る必要もないほどに全てが表情や態度に現れていたからだ。自分自身も普段から笑みと言葉で武装して探り合いをしている人間だが、あれほどハッキリと感情を顕にしている光莉は本当に珍しかったからこそ部屋に招き入れたのだろう。

だからこそ、一緒にいて居心地が良く精神的に穏やかに過ごせていたのかもしれない。

心を許せるかもしれないと期待した所で男と並んで歩いている姿に"裏切られた"と感じ、カッとなった自分はなんて幼稚だったのか。

「会長?」

声をかけられた一は身なりを整えると車を下りて相手が待つロビーへと向かう。仕事を片付けて早くマンションに戻りたい気持ちが出ていたのか後ろを歩く秘書にまた窘められ一はなんだかバツが悪そうな表情になってしまった。




ガサリと音を立ててカウンターに荷物を置いた光莉は、エプロンをつけると夕食の準備を始める。戻りは20時を過ぎると秘書から言われているのでその頃に温かい食事を提供できるようにしなければ。

「顔色良くなかったし、胃に優しい物がいいよね」

先程見た一の顔色を思い出し呟く。
しっかりした秘書がついていながら、体調管理がされて居ないなんてことあるのだろうか。と思ったが居候していた時にあの秘書を見たことは無かったことに気付く。
それにハウスキーパーを雇えるならば家政婦に食事を作ってもらえば済む話だ。
しかし過去の依頼は全て掃除のみだった。

「ご飯、どうしてたんだろう」
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