第9章 ヒカぎぞ
「みんなぁ……僕はここまでだ……っ」
いきなり泣き演技から始まった撮影。部屋に誘い込まれて開かない鉄の扉にしがみついているのはヒカックだ。
「おい、ネタ臭いのはやめろ」
その後ろで冷静にツッコミを入れるのはぎぞくさん。この二人だとこういうやり取りが生まれるらしい。
「酷いな、人が悲しんでるところにネタ臭いなんて」
途端に切り替えるヒカックは、閉じ込められたという緊迫感もほどほどにぎぞくさんに食ってかかった。
「いいから! 早くここからの脱出方法を見つけるぞ」
ヒカックの対応に慣れたぎぞくさんは、言葉の割にはあまり怒っていない様子で部屋の探索を始めた。
「けどさ、初めてじゃない? こうして僕とぎぞくさんが二人だけドッキリ仕掛けられるの」
ドッキリを仕掛けられたことになぜかワクワク口調が止められないヒカック。さすが、ヒリつきファンタジアだ。
「そうだったか?」
一方のぎぞくさんはやはり落ち着いている。探索を始めようと部屋の中をぐるりと見回した時、まずはあの文字を見つけたのもぎぞくさんだった。
「ああ、そういうことか」
「何? ぎぞくさん」
「ヒカック、アレを見ろ」
「え……?」
そうしてヒカックは、ぎぞくさんが見つめる先を見やる。ヒカックは分かりやすく、えぇ?! と驚いた。
「○○しないと出られない部屋……?」ヒカックはぎぞくさんへ視線を移す。「ええ、ぎぞくさんと?!」
「どうやら私たちは、厄介な部屋に……」
「嫌だぁ! ぎぞくさんとペケペケしないといけないなんて! ここから出してぇ、地獄から出してぇ!」
どこまでが冗談なのか、ヒカックはぎぞくさんの言葉を最後まで聞かずに鉄の扉へ駆け込んで騒ぎ出した。いくら叩いても揺らしても、強制アドベンチャーモードになるその部屋では破壊が不可能だ。