第8章 雨米
「普通にやったら、面白くないよね?」
「何言ってるんだよ、人に食べさせるだけに面白さなんて何もないだろ」
「でもさ、撮れ高必要じゃない?」
「あ、撮れ高か」
この会話の展開、もしかしておんルザパターンになるのか? とドズルは少し心配になったが。
おもむろに立ち上がった米ショーが、近場の本棚から本を取り出し、テーブルに置いた。
「じゃあやるからな?」
「私はいつでも準備出来てるよ」
何をするのか予想もつかない行動にドズルたちが前のめりでカメラ画面に見入っていると、米ショーが咳払いをして話し出した。
「おーい、お前たち」
それは米ショーのいつもの話し方や声ではなく、まるで枯れたような声で話すおじいさんかのようだった。
雨栗はいつもと同じ表情で言葉を繋げた。
「なんだ……? 何か喋った? 米ショー」
そこですかさず米ショーがいつもの声で返答をする。
「いいや? 俺は何も」
そこからは二人の巧妙な演技が始まったのだ。
「おかしいな。どこかで声が聞こえた気がしたんだけど」
「雨栗の気のせいなんじゃない?」
「そうかなぁ?」
📕「おーい、ワシはここ、ここ! ここにおるぞ!」
「ほら、やっぱり聞こえるよ?」
「ええ、聞こえないよ……ここにあるのは本とカレーだけなんだし……」
📕「その本が今お前たちに話しかけてるんじゃ!」
そうして二人(と本)の茶番劇が始まり、本という名の米ショーが、カレーライスをあーんしないとこの部屋から出さないぞ、とセリフを言い出した。そこからはお察しの通り、嫌だ嫌だと抵抗し始めるのだが、最後はなんと、本(という名の米ショー)が雨栗と米ショーにカレーライスを食べさせるというビックリな結末を迎えて無事にその部屋から脱出した。
ネタばらしにドズルが二人を迎えに行くと、雨栗は楽しかったと言い、米ショーは撮れ高のことを気にした。なのでドズルは大丈夫だと答え、二人にこう言った。
「まさか部屋の中でストーリーを作るなんて思いもしませんでしたよ」
米ショーの演技っぷりに拍手を送れば、あれは本当に本が喋ったのだと笑って返したので、編集で上手いこと演出に使ってもらうしかないな、とドズルは密かに思ったのだった。