第14章 阻止 × 宴
しかし、覚悟した感触はいつまでも降りてこない。そっと目を開けるとからかうような笑みでサクラを見下ろすクロロの顔があった。
『!!』
「どうした。顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
その声は意地悪さを含んでいる。
『…っなんでもない!私シャワー浴びるから!!』
「そうか?」
「…あのまま、してもよかったのか?サクラ」
甘さを含んだ低い声で問うクロロ。声に反してその瞳は何故か悲しげに揺れていた。
『し、知らない!』
クロロの様子にどうしていいかわからずそう叫び、サクラはバスルームへと逃げるように入っていった。
バスルームを見つめながら、クロロはふっと息をつく。
「…あのまま感情に任せていれば、俺にも…」
「ダメだよ。」
「!! 誰だ?」
部屋を見渡しても、誰もいない。いるのは黒い子猫だけ。
「…お前か?」
「そうだよ。サクラはいずれ僕のものになるからダメって言ってるんだ。」
「…どういうことだ。お前は何だ?」
「…とにかくサクラに手を出したら許さないよ。」
「ふん、猫のごときが何を言っている。お前では何もできないだろう。」
「……」
ここで正体を現すわけにはいかず、ネーロは「にゃ」と鳴いて、何も言わずにサクラのいるバスルームへと消えていった。
「いずれ……」
黒猫の言っている意味がわからず、煮え切らない気持ちのままクロロはサクラの部屋を後にした。
クロロはヒソカに、自分がククルーマウンテンまで連れていくと言って、先に行ってもらうよう根回しをしていたのだった。少しでも長く彼女と居たい気持ちが大きくなっていたのだ。
ヒソカはこれに気付いていたようだが気まぐれな彼は案の定断ることをしなかった。
(あんなことで引き止めることができるなら俺はまだ諦めてやらないぞ、サクラ)
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