第5章 スキンシップ × 兄弟
『殺し文句すぎる!』
はぁぁ、と盛大なため息をつくサクラの顔は火照ったまま。普段感情が見えてこないイルミだからこそ、あの言葉に戸惑うことしかできなかった。
『イルミどうしたのかな。私のことからかってるだけじゃないの…?』
抱き締めてきたり、キスしたり、手を繋いだり。
それは自分の反応を楽しんでいるだけだと思っていた。
それなのにさっきのイルミの言葉は。
【どうしてオレの感情をこんなにかき回すの?】
(私、イルミに悪いことしちゃったのかな…)
彼の様子がおかしいのは誰が見てもわかるだろう。いつも無表情で淡々としていて冷静なイルミ。
でも、「忘れて」と言ったその顔はなぜかとても寂しそうだった。
『…というか私のこの記憶喪失みたいなのなんなの!』
思い出せそうで思い出せない自分の記憶。忘れたままではいけない気がするのに、思い出そうとすればそれを邪魔するように痛む頭にひたすら苛立ちを覚える。
『なんなんだ私!』
そう叫びながら、ぼふんっとベッドに沈む。この世界にトリップしてきたのは間違いないのに、大事なことが思い出せないなんてトリップは聞いたことがない。
はーーーーー…
自分に苛立ちながら、今日2度目の盛大なため息をついた。