第4章 お手伝い × 王道
しばらくして戻ってきたマークに案内された部屋はとてつもなく広く、目の前にはキングサイズのベッドが鎮座している。
『えーっと?』
「みずくさいじゃないかサクラ。二人きりになりたいならそう言っておくれよ。ここは僕の部屋さ」
『はい?え??』
(勝手に呼び捨てすんな!)
この男はサクラが誘ってきたと勘違いしていたのだ。
『あ、あの私気分が…』
「もう演技はいいんだよサクラ。さぁ…」
どさりとベッドに押し倒され、そのまま男が被さってくる。
「ほら愛の接吻を…」
(ぎゃああぁ!!無理無理無理無理!イルミ!)
「やめなよ、嫌がってるじゃん」
音もなく現れたイルミの少し怒気を含んだような低い声が広い部屋に響いた。
「だ、誰だ!」
『イルミ!!』
「…サクラから離れろ」
「なんだお前は!僕の部屋に…っ」
そう言いかけたままマークの動きが止まる。
『……?』
どさりとサクラの上に倒れてきた男のその顔には見覚えのある鋲が数本刺さっていて、すでに事切れていた。幸い血は少しも見えなかった。
「サクラ、大丈夫だった?」
そう言いながらサクラの上から男の死体をどかすイルミ。
『…ぎゃあぁぁモガ』
「叫んだらバレるだろ、静かにして。」
イルミの手に口を塞がれたサクラは頷く。と同時にぽろぽろ涙が零れた。
それに気付いたイルミはサクラから手を離して顔を覗き込み、そして苦しくなった。
『イルミのばかぁ…怖かった…』
「ごめん。泣かないでよ」
『だって、も、もっと早く来てほしかった…あの男の唇がちょっとくっついたんだからぁ』
その言葉を聞いた瞬間、イルミの中にどろどろしたモノが広がる。
「…どこに?」
『どこって、くち、ん…っ』
言い終わる前にイルミの唇が重なった。触れるだけの、でも長くて優しいキス。ちゅ、とリップ音を立ててイルミが離れる。
「消毒」
『~っ!』
顔を真っ赤にして涙目のサクラの様子に満足そうなイルミ。広がっていた黒い感覚も消えていた。
「もっとする?消毒」
『結構です!!』
「嘘だよ。帰ろう」
ほら、と手を差し出すイルミ。サクラの顔は熱を持ったまま、こくんと頷いてその手を取った。