第4章 動乱【土方歳三編】
私の言葉に平助君と千鶴は首を傾げていた。
そんな二人に笑みを浮かべながらも、私達は朝餉を食べるために各自座る。
暫くして、土方さんと近藤さんの姿が見えて広間へと入ってきた。
近藤さんは直ぐにいつもの場所に座るけれど、土方さんは座らずにいた。
「トシ、座らんのか?」
「まだ終わってねえ仕事があるんだ」
「だが、朝餉だけでも食べたらどうだ」
もしかして、土方さんは昨日の約束を忘れられているのだろうか。
昨日ちゃんと食べると約束してくれたのに……と思いながら、私は土方さんへと言葉をかけた。
「土方さん。昨日、約束してくれましたよね」
私の言葉に土方さんは顔を顰めながら、頭を数回掻いてからお膳へと視線を向けた。
「後で食えば良いだろ」
「ダメです。後で食べると言って、本当に食べるかなんて分かりません。今、ここで食べて行ってください」
「今は、直ぐに終わらせてえ仕事があるんだよ」
「そう言って、また【忙しいからあと食べる】と言って食べないですよね?それとも、また強行突破で口にご飯を突っ込んでもいいんですか?」
「お前……」
土方さんは口元を引き攣らせながらも、小さく舌打ちをしてから座った。
そして箸を手に持つと、今日私が作った里芋の煮物を食べ始める。
横にいる近藤さんは、食事を始めた土方さんと私を交互に見比べていた。
そして驚いたように目を見開かせながら、笑みを浮かべる。
「おお!トシが、千尋君の言う事を聞いて食事をしている!!」
「お前、千尋凄いな。あの土方さんに言う事聞かせるなんてよ」
「土方さん、どういう心情の変化なんですか?あんなに食べなかったくせに」
ニヤニヤと聞いてくる沖田さんに、土方さんは不貞腐れたような表情を浮かべる。
「うるせえ。食わねえとコイツ、口に飯を本当に突っ込んでくるんだよ。あと、口うるせえ」
「口煩くて、ちゃんとお世話してくれる小姓が出来て良かったですね、土方さん」
「総司、黙って食え!!」
土方さんと沖田さんのやり取りを見ながら、周りの幹部の人たちは笑っていた。
久しぶりの土方さんが居る、賑やかな食事。
でも、一番良かったのはちゃんと土方さんは朝餉も食べてくれたこと。
でも、この場に山南さんも居ればもっと良かったのに。
そう思いながら、私は味噌汁を一口飲んだ。