第4章 動乱【土方歳三編】
「大丈夫ですよ、無理に思い出そうとしないで。雪村診療所を昔はよく訪ねていましたが、今度はこっちを訪ねるようにしますね」
「はあ?何言ってやがる!おまえは来なくていい」
「そう言わないでくださいよ。同じ江戸出身のよしみじゃないですか」
嬉しそうに詰め寄っていく八郎お兄さんに、土方さんは眉間に皺を寄せながら困った表情を浮かべる。
どうやら、八郎お兄さんを扱いかねているみたいだ。
普段はあんなに厳しい土方さんだけど、なんだか八郎お兄さんといるといつもの土方さんに思えない。
それに土方さんも満更でもないようだ。
そんな時、声を聞き付けたのか、幹部の皆さん方が姿を現した。
「おいおい、八郎じゃねえか!」
「聞いたことがある声だと思ったら、おまえだったのか」
「新八さん、原田さん……それに皆さんもお久しぶりです」
「そうか、おまえも京に来たのか!武者修行か?それとも京見物か?」
「なわけねーし。お偉いさんの護衛とか視察なんだろ?」
「まあ……はい。そういうところです」
「あんたが京に来るとなると……それなりの職務に就いたということか」
斎藤さんの言葉に、八郎お兄さんは自分の役職は言わなかったが曖昧に頷いていた。
「ふうん……君も京に来たんだ。ま、死なない程度に気をつけなよ」
「助言、ありがとう。覚えておきます」
「じゃあ、今度呑みに行くか!なんなら今からでもいいんだぜ!?」
八郎お兄さんを囲んだ幹部の方々は次々と声をかけていた。
そんな様子を見守っていれば、千鶴が私の着物の袖を軽く引っ張る。
「伊庭さん、千尋や私の幼馴染なんだよね?」
「うん。それに、私が通っていた道場あったでしょう?その跡取りの息子さんでもあるんだよ」
「千尋が通っていた……」
千鶴はやはり思い出せないようで、【うーん、うーん】と唸りながら悩んでいた。
その姿を見ながら笑って、八郎お兄さん達の方を見ていれば、土方さんが優しさの籠る目で彼らを見ている姿が目に飛び込む。
そして、土方さんは小さく呟いた。
「あいつは旗本で、伊庭道場の跡取り息子のくせに……何が気に入ったのかしらねえが、俺たちとつるみやがってな……」
「仲が、良いんですね」
「まあ、ちょっとした顔なじみだ。訪ねて来たら中に通してやってくれ」
「はい」
そして夕刻になった頃、八郎お兄さんは屯所を後にする事に。