第18章 修羅の轍【沖田総司編】
ー慶応三年・八月ー
新選組の屯所が、西本願寺から不動堂村に移ってもう二ヶ月が過ぎようとした頃。
「……ふう」
「……はあ」
夕飯の膳をあらかた片付け終えた私と千鶴は、小さく息をついた。
「雪村君たち。後は私がやっておくから、君たちは先に休んでいたまえ」
「井上さん」
「ですが……」
「私たちなら、大丈夫ですよ?以前に比べれば、膳の数もだいぶ少なくなりましたしーー」
そう言いかけて、千鶴は慌てて口をつぐんだ。
「すみません、私……」
「……いや、気にしないでくれ。隊士が少なくなったのは本当だからね」
私たちは少しだけ顔を俯かせた。
伊東さん、斎藤さん、平助君たちが離隊してから新選組の隊士の数は少なくなった。
「斎藤君も藤堂君もきっと、伊東さんの下で頑張っている筈だよ。我々も負けないよう、努力しなくてはね」
「……はい」
「そう……ですね」
「さあ、部屋に戻りなさい。子供は、夜更かしをしてはいけないよ」
「私たち、もう子供じゃないですけど……」
「もう子供という年じゃないですが……。でも、ありがとうございます。それじゃ、お先に失礼しますね」
私と千鶴はそう言い残してから、広間を後にした。
けれど私も千鶴もそのまま自室に戻るつもりは、何故かなれなくて……。
「道場に行こうかな」
「そうだね」
二人して道場へと向かった。
夜の道場は人の気配がなく、しんと静まり返っている。
前の屯所にいた頃は、隊士さん方に稽古をつけている平助君に斎藤さんの姿をよく見かけていた。
だけど当然ながら、彼らがこの道場で木刀を振るっている姿を目にしたことは無い。
(沖田さんも体調が悪いせいで、この道場にはほとんど姿を見せないし……)
仕方ないことなんだろうけど、いて当然だった人達の姿を見られないのは悲しい。
「……私、木刀取ってくるね。ちょっと身体を動かしたいから」
「うん」
木刀を取りに行こうとした時だった。
背後から物音が聞こえてきて、私と千鶴は慌てて振り返る。
「……どなたか、いらっしゃるんですか?」
千鶴が、物音が聞こえた方へと呼びかける。
「……永倉さんと原田さんは違う……よね。お酒を飲みに出掛けてるから」
そうなると、物盗りかもしれない。
「外、見てくるね」
「う、うん」
もし、物盗りなら…と思い、私は外に出てみた。
だがそこには誰の姿もない。