第16章 暗闇の音【沖田総司編】
後ろにいた千鶴は、息を飲みながらも浪士たちに言葉を放った。
「……あなたがお国のために尽くそうという、高い志をお持ちなら、なぜ、か弱い女子供に乱暴な真似をなさるのですか?町人を守ってこその侍でしょう!」
「そんな事さえ分からない貴方は、侍でもなんでもない!不逞浪士であり、ただの迷惑ものです!」
「なんだと……!?」
私と千鶴の言葉が癪に障ったのだろう。
浪士は更に目を剥かせていて、体を震わせながら私たちを睨んでくる。
「そうだそうだ!いいぞ、兄ちゃんたち!」
「志士きどりの不逞浪士め!京から、さっさと出て行け!」
さっきまで、事態を静観していた町人達だったが、私と千鶴へと歓声を送ってきた。
それが余計に浪士の怒りに火をつけたのだろう。
「くそっ……!馬鹿にしやがって!」
浪士は怒りで体を震わせながら、鋭い音を立てて抜刀したのである。
それを見た私も、瞬時に刀の柄を握り締めてから体制を少しだけ低くした時であった。
鈍い音が鳴り、浪士が呻き声を出した。
そして、浪士はゆっくりと体を傾けるとその場に倒れ込んでしまう。
「……斎藤さん!」
「……安心しろ、峰打ちだ」
斎藤さんが峰打ちしたようで、男は未だに呻きながら転がっている。
「斎藤さん!」
「ぐ、うぐっ……!き、貴様……」
「……そいつを屯所に連れて行け。長州の残党かもしれん」
「はいっ」
斎藤さんから命令を受けた隊士の方々は、浪士を縄で縛りそのまま連れて行ってしまった。
その光景を見ていれば、斎藤さんが私たちを見ていて、その目は冷たいもの。
思わず背筋を伸ばせば、斎藤さんは叱責するような口調で言った。
「何故、俺を呼ばなかった?万が一のことがあったら、どうするつもりだったのだ」
「「……すみません」」
私と千鶴は同時に斎藤さんに頭を下げて謝罪をして、千鶴は後ろにいる女の子を見ながら弁明をして、私は千鶴を見てから弁明をする。
「もし、彼女が怪我をさせられたと思って、つい……」
「私は……千鶴が怪我をさせられたと思ったら……」
すると、後ろにいた女の子は眉を少しだけ寄せながら言葉を発した。
「怪我なんてしないわよ!まったくもう、無茶しちゃって」
「え、あの……?」
まさかの女の子にまで無謀を叱られしまい、千鶴は少しだけ縮こまってしまった。
そして女の子へと頭を下げて謝罪をする。