第16章 暗闇の音【沖田総司編】
大掃除が始まって、隊士の方々は口々と文句を言ったり愚痴を零したりしながら片付けや掃除を始めた。
その中で、武田さんは嫌そうに顔を歪ませながら呟いている。
「そもそも私は、軍略が専門だというのに……」
「いいじゃねえか。いつも自慢してる甲州流なんちゃらで、ぱぱっと終わらせてくれよ」
「黙れ!私の甲州流軍学は、このような下らぬ役目の為にあるものではない!」
「……原田も人が悪いな。こいつが盲信してる時代遅れの兵法なんて、このご時世、掃除の役にも立たないだろ」
「み……、三木君、言葉に気を付けたまえ。確かに洋学には劣るかもしれんが、甲州流軍学は決して時代遅れではなく……」
「……お、近藤さんだ」
「ーーむ!近藤局長!ご覧下さい。先程まで足の踏み場もない程だった部屋が、私の指導でここまでーーん?局長は?」
相変わらず、武田さんは近藤さんと聞けば態度が変わる人だな……と苦笑を浮かべる。
だが、武田さんの視線の先には近藤さんの姿は無く、彼は原田さんに恨みを込めた目で振り返る。
原田さんはそんな武田さんを見て、小馬鹿にするように鼻で笑っていた。
「へっ、引っかかりやがった」
「原田、貴様……謀ったな!」
「ぶつくさ文句言ったり、ぺこぺこしたり、怒ったり、忙しいな、あんたも。そうやって相手によってころころ態度変えてて、疲れねえか?」
本当に原田さんの言う通りである。
武田さんはよく、人によって態度を感嘆しそうなぐらいに変えていた。
そんな彼らを見ながら箒で埃を集めていれば、外で雑巾を洗いに向かっていた千鶴が戻ってきていた。
「皆さん、雑巾を洗ってきました。拭き掃除にはこれを使ってください」
「お、ありがとよ!」
「千鶴、お疲れ様。ありがとう、雑巾洗ってきてくれて」
「ううん。千尋もお疲れ様、大変だったでしょう。この広さの広間を箒で掃除していくの」
「まあね……。にしても、幹部の人たち凄く不満げだね」
「うん……」
幹部の方々の様子を見ながら、私たちは苦笑を浮かべながらも掃除を続けた。
翌日。
掃除の成果を確かめる為、松本先生が再び屯所に来られていた。
そして松本先生は屯所を見て周りながら小さく頷く。
「うん、まあまあ綺麗になったじゃないか」
「だろ?この筋肉は飾りじゃねえって、先生もようやくわかってくれたみてえだな」