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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第16章 暗闇の音【沖田総司編】


だけれども、山南さんは永倉さんの言葉を聞くと静かに瞼を閉じる。
そして、怪我をする前の穏やかな頃のように言葉を紡ぐ。

「わかっていますとも。……永倉君、君こそ忘れたのですか?我々は【薬】の存在を伏せるよう、幕府から命じられているのですよ。……私が死んだことにすれば、今までのように【薬】の存在を隠し通すことができる。それに、もし【薬】の持つ副作用を消すことができるのだとすればーー。それを使わない手は、ないでしょう?」

彼の言葉に、広間には静けさが広がっていた。
そんな彼の言葉を聞いて、私は疑問を抱いてしまう。
自分を死んだことにする程、【薬】の実験は大事なのだろうかと……。

「【薬】の実験は、幕府からのお達しでもあるしな……」

近藤さんの言葉が、静けさを消し去った。

「……そうするしかない、か」
「まあ、山南さんが自分で選んだ道ですし、止めたって聞く人じゃないですよね」
「……よくわかっていますね。その通りですよ」

彼らの会話を聞いていた土方さんは、苦いものを目元に浮かべながら言葉を漏らした。

「……屯所移転の話、冗談じゃ済まされなくなったな。山南さんを伊東派の目から隠すには、広い屯所が必要だ。ここじゃ狭過ぎる」
「……同意します。【薬】の研究を続けるのであれば尚のこと、移転を急ぐべきかと」
「よし、ろくに寝てねえとこ悪いが、話し合いを始めさせてもらうぜ。雪村たち、おまえらは部屋に戻ってろ。昨晩、ろくに寝てねえだろ」
「……え」

ろくに寝ていないのは皆さんだって同じ。
だけども、屯所移転の話し合いに私たちが参加しても役には立たないだろう。
私は千鶴と顔を見合わせてから頷きあった。

「……はい、わかりました。それじゃ失礼します」
「失礼します……」

幹部の方々に一礼すると、私と千鶴は広間から退去する。
すると、やはりろくに眠っていたなかったせいなのか、くらりと目眩に近い眠気が襲ってきた。
緊張が解けたせいもあるかもしれない……。

「千鶴……部屋に戻ろうか」
「うん……」

部屋を目指しながら歩いている最中は、山南さんのことが頭を埋めつくしていた。
彼が無事だったのは正直嬉しいけれど、懸念はいくつもある。

父が私たちに知らせずに行っていた、恐ろしいとも言える研究。
それが化け物とも呼べる存在を生み出すものだったということが、私には信じられなかった。
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