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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第14章 動乱の音【沖田総司編】


そして、八郎お兄さんを見送り、屯所の中に入ろうとした時であった。
後ろを振り返れば沖田さんがいて、何時の間に居たのか分からず驚いてしまう。

「沖田さん!?」
「総司、お前何してやがる」
「いやあ、まさか伊庭君と千尋ちゃんと千鶴ちゃんが幼馴染とは思わなかったなあと思って」
「……私は、覚えていないですけど」

千鶴はどうも思い出せないようで、申し訳なさそうに眉を寄せていた。
そんな彼女に苦笑を浮かべながらも、私は八郎お兄さんが去っていった道へと視線をやる。

「思い出せないなら、八郎お兄さんのお話しようか?千鶴。思い出せるかもしれないから」
「うん、そうだね。お願いしてもいいかな、千尋」
「いいよ」

そんな会話をしていると、沖田さんが何やらニヤリと笑ったのが見えた。
暫くここに居るけれど、彼があんな風に笑う時はたいてい良からぬ事を考えている時。

すると沖田さんは私に顔を近づけて来る。
鼻と鼻がぶつかりそうな程の近さであり、私は思わず後ろに下がった。

「お、沖田さん……?」
「ねえ、千尋ちゃん。君、伊庭君の事を【八郎お兄さん】って呼んでたよね」
「そ、そうですね……。幼い頃から呼んでますけど」

それがどうしたのだろうと思っていれば、彼はまたにやりと笑みを深くさせる。

「ねえ、千尋ちゃん。僕のことを【総司お兄さん】って呼んでみてよ」
「はい!?」

突然のお願いに私は目を見張る。
何故そんなことを言ってくるのだろうかと思っていれば、土方さんが呆れたように溜息を吐いていた。

「総司、お前はなんでこう……くだらねえ事を企むんだ?」
「酷いなあ、企んでなんかいませんよ。ただ、呼んでみてほしいなあと思って」
「な、何で……ですか?」
「君さ、ここにいる人たちを大抵は【さん】って呼ぶでしょ?平助だけは【君】だけど。でも【お兄さん】は無いから、呼ばれたらどんな感じかなと思って。それに僕は君より年上でしょう?」

理由がよくわからない。
そう思いながらも、呼ばないと沖田さんは不機嫌になるし不機嫌になるとこの人は面倒臭いと理解している。
すると、土方さんが思わない助け舟をくれた。

「おい、雪村姉妹。お前ら炊事当番だろ、早く勝手場に行ってこい。総司はくだらねえこと言ってんじゃねえ!」
「酷いなあ、土方さんってやっぱり」
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