第14章 動乱の音【沖田総司編】
土方さんに言われて、私は直に千鶴のいる部屋へと向かった。
千鶴は覚えているだろうか、八郎お兄さんの事を………なんて思いながら千鶴を連れて広間に戻った。
「あの……こちらの方は?」
「あ……」
そして広間に入って八郎お兄さんを見た瞬間、千鶴はそう言葉にしたので覚えていないという事がわかった。
すると八郎お兄さんは少し寂しそうな表情を浮かべていて、土方さんはなんとも言えない表情を浮かべる。
千鶴は八郎お兄さんのことを覚えていない。
顔を見れば思い出すかなと思ったけれども、どうやら思い出す気配もなかった。
「コイツは、伊庭八郎。幕府直参の旗本で、奥詰っていう役職を務めてんだ。で、俺らとこいつの実家の道場でちょこちょこ交流があってな」
「そうなんですか!」
「千鶴、覚えてない?」
「……え?」
どうやら、やっぱり覚えていないらしい。
確かに最後に会ったのは小さい頃だったけれども、私も忘れていたけれども。
「で、さっき八郎、お前は女でも隊士が務まるのかって言ったよな。こいつらはちょいと訳ありで預かってて、表向きは男って事になってる。新選組でも一部の奴らしか知らない事だ。だから、ここでも下手なことを口にしないでくれ」
「わかりました。……その訳、僕が聞いても良いですか?」
「ああ。こいつらの親父が行方不明でな。捜査に協力してもらっている」
「行方不明って、もしかして……雪村綱道さんがですか?」
「どうしてあなたが父の名前を……!?」
千鶴は、八郎お兄さんを覚えていないせいか、彼が父様の名前を知っていることに驚いていた。
すると八郎お兄さんは千鶴の方へと視線を向ける。
「……千鶴ちゃん。僕のこと、覚えていませんか?」
「あの……父様の患者さんだったんですか?」
「いいえ……幼い頃、蘭学に興味があって訪ねたことがあったんです」
「そうだったんですか……」
「千鶴、覚えていない?伊庭八郎さん……私たち、小さい頃【八郎お兄さん】って呼んで、遊んでもらってたけど」
そう聞くと、千鶴は驚いた表情を浮かべて考え込むけれども、思い出せなかったようだ。
申し訳なさそうに眉を下げていた。
「大丈夫ですよ、無理に思い出そうとしないで。雪村診療所を昔はよく訪ねていましたが、今度はこっちを訪ねるようにしますね」
「はあ?何言ってやがる!おまえは来なくていい」