第14章 動乱の音【沖田総司編】
「いいえ、大したことではありませんでしたから。それより、元気そうで何よりです、千尋ちゃん」
また、彼は私の名前を呼んだ。
名前を名乗った覚えは無いはず、でもこの人とは何処かであった記憶があるような気がする。
不思議な人だと思いながらも、ふと、前に名前を聞かなかった事で土方さんに叱られたことを思い出した。
「あの、不躾な質問をしてしまいますが……貴方のお名前を伺ってもいいでしょうか?」
叱られたのもあるけれども、もしかしたら名前を聞けば思い出すかもしれない。
そう思い、名前を伺ってみれば、一瞬だけ彼は寂しそうな表情をしたが直に優しい笑を浮かべた。
「僕は……伊庭八郎です」
「伊庭八郎……伊庭八郎……」
何処かで聞いた名前、いや……知っている名前だ。
私は彼の名前で直に色々と思い出した。
「八郎お兄さん!?」
「ああ、覚えてくれてたんですね、千尋ちゃん!」
「ご、ごめんなさい!私……忘れてしまってたなんて」
「それは仕方ないです。最後にあったのはお互い、まだ本当に幼い頃でしたから。それに君が道場に通ってる時は、僕は居なかったりしましたからね」
彼は、私が通っていた【練武館】という道場を営んでいる私の先生でもある伊庭秀業先生の息子さんであり、よく私と千鶴の家でもある雪村診療所に遊びに来ていた年上の幼馴染。
「千尋ちゃん、本当に大きくなりましたね。最後に会った時はあんなに小さかったのに。でも、お転婆な所や危ないことをしようとするのは変わりませんね」
「うっ……そ、そうでしょうか。その、八郎お兄さんも変わりましたね。こんな立派なお武家さんになっていたなんて……」
懐かしくてたまらない。
よく彼は、家に来ては私や千鶴の遊び相手になってくれた。
そして、私が剣術を学びたいと言った時に練武館に誘ってもくれたのだ。
それに、彼のお父様も凄く親切にしてくれた。
子供が、ましてや女が剣術を習いたいと言っても馬鹿にはしないできちんと教えてくれたのだから。
「君がここに居るということは、まさか千鶴ちゃんもいるんですか?」
「あ、はい……。実は、姉妹でここでお世話になっていまして」
「そうなんですね……」
「そういえば、八郎お兄さんは今日はどうしてここに?」