第14章 動乱の音【沖田総司編】
私の顔色の悪さに気が付いた永倉さんが、慌てた表情を浮かべながら駆け寄ってきた。
「血の匂いに酔ったのか?応急処置はだいたい終わったんだよな?外に出るぞ、一先ず」
「すみません……」
「気にするなって。ありがとうな、気分悪かったようなのに応急処置してくれて」
永倉さんに支えられながら、私は池田屋から出た。
外はもう日が昇っていて明るくなっていて、血の匂いもすることがない。
だけど瞼の裏には死んだ人々の姿がこびり付いている。
忘れたいけど、直ぐに忘れられない光景。
吐き気も未だに収まっていないし、足がふらふらしていると思っていれば聞き慣れた声がした。
「千尋!!」
「……千鶴」
「千尋、大丈夫?ゆっくり息を吸って……」
「う、うん……」
慌てて駆け寄ってきた千鶴は私を支えながら、背中をさすってくれる。
屯所にいたはずの彼女がここに居るということは、伝令として来たのだろう。
「千鶴ちゃん、千尋ちゃんは大丈夫なのか?すげぇ顔色が悪いけど」
「……千尋は、昔から血が苦手で。血を見たりして、酷い時は倒れてしまう時もあって」
「本当か?それは、悪いことしちまったな……。悪かったな、千尋ちゃん。知らなかったとはいえ、こんな所連れて来ちまって」
「いえ……大してお役に立てずすみませんでした」
そう謝罪する私に、永倉さんは頭を撫でてくれる。
少しがさつだけれども、壊れ物に触れているように優しく撫でてくれた。
「いや、総司や平助の手当してくれて、しかも他の隊士の応急処置もしてくれて助かったよ。ありがとうな。屯所に戻るにまだ時間があるから、ゆっくり休んでてくれ」
「……ありがとうございます」
あの後、千鶴から話を聞けば実際の討ち入りは一刻ぐらいの時間で終わっていたらしい。
だけど私にとっては、とても長い時間に感じられた。
池田屋にいた尊皇攘夷派の浪士は、二十数名とのこと。
そのうち、新選組は七名の浪士を討ち取り、四名の浪士に手傷を負わせた。
これは後のことになるけれども、会津藩や京都所司代の協力の元、最終的には二十三名を捕縛した。
彼らの逃亡を手助けしようとした池田屋の主人もまた、改めて捕縛されることになったという。
数に勝る相手への懐へと突入したことを考えれば、新選組は目覚しい成果を上げた。