第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……土方さんは、見失うなよ?生き急いだって、いいことねえからな……。相馬もだぞ……?」
「……はい、藤堂さんっ」
平助君の言葉に、相馬君は声を震わせながら返事をする。
今にも泣き出しそうな彼は、懸命に唇を噛み締めながら泣くのを我慢していた。
やがて、彼らの身体が崩れていく。
砂のように、形すら残さずに崩れ去ってしまい、その場に残ったのは彼らが身に付けていた洋服と、白い灰。
「……平助君、山南さんっ」
「藤堂さん、山南総長。今まで、ありがとうございました……」
千鶴と相馬君は涙を溢れさせていた。
そして、私もまた、涙を溢れさせながらも土方さんへと声をかける。
「土方さん……」
だけど彼は返事はしない。
二人の手を握っていた拳を握りしめたまま、動こうとはしなかった。
やがて、彼は静かに立ち上がった。
四人だけどなった広間は静かであり、余計に辛さを煽ってくる。
「帰るぞ」
「……はい」
そう、私が返事をすると彼は私の顔を見てから少しだけ目を見開かせる。
そしてきまり悪そうに目を逸らした。
「……おまえら、泣くんじゃねえよ」
彼の言葉に、私たち何も言えなかった。
土方さんに言われた通りに、泣かないようにしようとしたけれども涙は止まってくれない。
綱道父様、平助君、山南さん。
三人とはここでお別れになる、もう二度と彼らと会えることはない。
「……さようなら」