第10章 乱世【土方歳三編】
ー慶応三年・十二月中旬ー
王政復古の大号令を切っ掛けに、薩摩と長州の軍が京に集まりだしていた。
それと同時に、徳川幕府に関わる人達は朝廷や京から閉め出され始めている状態。
それが不満だったのだろうかーー。
江戸から徳川幕府の大勢の軍勢が京に上ってきているのを耳にした。
その軍勢を迎え撃つために、薩摩長州も軍勢を京に集め始め幕府と関係は一触即発となっていた。
新選組は幕府の軍勢を補佐するため、京都守護職の要請により伏見奉行所に入ることになった。
いざという時の為、全ての人員や武装を伏見奉行所入りさせるということで、私と千鶴も皆さん方に同行した。
「おいてめえら、ぼさっとすんな!夕刻までに銃の運び込みを終わらせとけ!」
「おいおい。篝火のすぐ脇に大砲なんて置いたのはどこのどいつだ?いい的になっちまうだろうが!」
薩摩軍がいつ攻めてくるか分からない中、隊士の方々は慌ただしく走り回っている。
でも、忙しいのは私や千鶴も同じだった。
私と千鶴は今日は朝早くから雑用係として、ずっと奉行所内を動き回っていた。
「原田さん、永倉さん、お疲れ様です。よければお茶をどうぞ」
「隊士の方々もどうぞ」
「お、気が利くじゃねえか。ありがとよ、千鶴ちゃんに千尋ちゃん。……ついでに、この中身をこっそり酒に変えといてくれたりしたら、もっと気が利いてたんだけどなあ……!」
「そう言われましても……」
「土方さんにお叱りを受けても構わない、そう言われるのでしたら、良いですよ?永倉さん」
にっこりと微笑みを浮かべると、永倉さんは引き攣った笑みを浮かべていた。
「馬鹿言ってんじゃねえよ、新八。そういうのは後だ、後。ほらみろ、千尋、笑ってるけど目の奥が笑ってねえだろうが」
「は、はは……怖いぞ、千尋ちゃん」
「悪いな、千尋と千鶴。そっちもずっと動きっぱなしで疲れただろ」
「いえ、大丈夫です。これが私の仕事ですから」
「それに、皆さんの方が私たちよりもお忙しいですから……」
私と千鶴が男だったら、もっと力仕事も出来て他の面でもお役に立てたと思う。
だけど、そんな事を思っても仕方ないし、私たちは私たちができることはしなければ……。
それでもやっぱり申し訳なくなってしまう。
「お前たちがそんな顔する必要はねえよ。戦のことは俺たちに任せりゃいい」