第8章 軋み【土方歳三編】
そして、ここのところ、近藤さんや土方さんはよく屯所の外に行かれて幕府のお偉い方達と会談を重ねていた。
会談は時には夜遅くまであり、帰りが遅い時も多々ある状態が続いている。
新選組が頼りにされているのは良いこと。
だけど、お二人が無理されて倒れられないかがすごく心配ではあった。
(特に土方さんが心配……。また、寝られないでお仕事をされているから)
そう思っていると、土方さんが通りかかって近藤さんを見つけるとこちらへとやってきた。
「おっ、近藤さん。こんな所にいたのか」
「おお、トシ。どこに行ってたんだ?捜したぞ。次の将軍がだな、家茂将軍の後見人だった一橋慶喜公に決まったようだ」
「……やっぱり、あの人に決まったか。他にやる人なんざいねえんだから、もったいぶらずにさっさと引き受けりゃいいのによ」
「トシ、将軍公になられた方に向かってその言い方はないだろう。あの方は、東照神君家康公の再来と呼ばれるほど、英明な方なんだぞ」
彼らの話を聞きながら、一橋慶喜公とはどんな方なのだろうと想像する。
亡くなられた家茂将軍はかなり幕臣の方に慕わられていたと聞いているけれど、慶喜公はどんな将軍になられるのだろう。
「まあ、いい。将軍が誰になろうが、俺たちはその将軍の元で戦うだけだ」
「そうだな。俺たちが頑張れば、それだけ将軍公も徳川幕府も安泰ってわけだ」
新たな将軍が決まり、また平和な世が続いていく。
誰もがそう思っていたが、慶喜公が将軍に就任してから僅か二十日後の事だった。
突如、天子様が崩御された。
前将軍である家茂公の奥様である、和宮様の兄であり公武合体派の象徴ともあえる、孝明天皇の死は各方面に衝撃を与えたのだ。
後を次ぐ親王様は、十五歳のまだ幼い少年。
攻め込んできた幕府を返り討ちにした長州藩の動向も見えないまま、日本という国が急速にうごきはじめようとしていたーー。
ー慶応三年・三月ー
春の時期になり、暖かな風が吹き出した季節。
京の町のあちこちでは桜が咲き始め、桜色に染め始められた。
「だいぶ、暖かくなりましたね」
「そうだね。過ごしやすい季節にはなったかな」
「あーー見てください沖田さん、千尋!桜が見事ですよ!ほら!」
今日は沖田さんの一番組の巡察に、私と千鶴は同行させてもらっていた。
その最中、町の至る所では桜が見事に咲き誇っていた。