第7章 混沌【土方歳三編】
「私は、雪村千鶴と申します。よろしくお願いします」
「私は、雪村千尋と申します」
私たちがそれぞれ名乗れば、女の子は驚いた顔をしながら僅かに眉を動かして、私たちの苗字を口にする。
「雪村……?あなた達、雪村って姓なの?……生まれは東国?それと、あなた達は姉妹なのかしら?」
「あっ、はい。私たちは双子の姉妹で、元々は江戸に住んでいたんですけど、事情があって、こうして京へ来たんです」
千鶴が説明すると、女の子はなにやら考えている様子を見せた。
驚いているような、困惑しているような……なんとも言えない顔をしながら。
だけどなぜ、彼女は私たちの姓に反応したのだろう。
しかも、直ぐに東国の出身かを聞いてきたし、彼女の気配……知っている気がした。
「あの……?」
千鶴は彼女の様子が気になったのか声をかければ、女の子ははっとした様子で顔を上げて笑みを浮かべた。
「……ごめんなさい、何でもないの。知り合いと同じ姓だったから。雪村って、すごく綺麗な苗字ね」
「そうですか?ありがとうございます」
「ありがとうございます……」
「よろしくね、千鶴ちゃんに千尋ちゃん。私のことは【千】って呼んで」
「お千さんですか。よろしくお願いします」
「お千さん……」
私と千鶴が【さん】付けで名前を呼べば、彼女は納得していないような表情を浮かべる。
「……何か、水くさいわね。見たところ同い年ぐらいだし、そんなにかしこまらなくていいわよ」
「そ、それじゃ……、お千……ちゃん?」
「お千ちゃんって、呼んでもいいのかな……?」
「んー……、まあ、いいわ。そう呼んでちょうだい。じゃあ、また会いましょうね。千鶴ちゃん、千尋ちゃん」
そう言うと、お千ちゃんは着物の裾をひるがえしながら走って行ってしまう。
私はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、先程のお千ちゃんの様子を思い出す。
私たちの姓を聞いた途端に、驚いたような表情を浮かべていた。
そして、何故か私たちの出身まで聞いてきただけではなく、彼女が纏う気配はよく知っているもののような気がする。
「あの娘、あんた達の姓が気にかかっている様子だったが」
「そう……ですね。知り合いと同じ姓だって言ってましたけど。まあ、雪村ってそんなに珍しい姓じゃないですから」
「だけど……あの子の反応、気になった」