第7章 混沌【土方歳三編】
確かに、手本にするような事じゃない。
だけどそれをさせているのは、全部土方さんのせいなのだから、あんな風に言われるのは心外。
そう思っていれば、近藤さんは何故か静かに頷いていた。
「成る程。時に小姓だとしても、そういう大胆な事をした方がいいんですね。勉強になります!雪村先輩!」
「お手本にしないでいいからね!?」
「もしや、俺がちゃんと食事をしなければ相馬君に握り飯を突っ込まれるかもしれんなあ……」
そうして、私と千鶴にはまさかの後輩が二人もできたのであった。
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ー慶応二年・九月ー
京を大混乱に陥れた【禁門の変】の後、幕府は長州藩を朝敵とし、各藩に長州征伐の命を出した。
後に、これは世間からは【第一次長州征伐】と呼ばれるようになる。
その後、長州藩の動きは一旦は収まっていた。
だが、そう見えただけであり、ほとぼりが冷めると再び長州藩は、幕府に対して礼を失った振る舞いを見せるようになっていく。
そこで詰問のために幕府方から長州藩への使者が向かうことになり、新選組からも近藤さんが同行することになったのだ。
だけども、長州藩はその恭順命令を徹底的に無視をし続けたのである。
そんな彼らを懲らしめる為、夏に二度目の征伐である【第二次長州征伐】が行われた。
だが、戦費の負担が大きかったことや、各藩から集められた兵士達の士気が下がっていたり、家茂将軍の訃報などが続き、長州征伐は幕府軍の敗北という、世間を揺るがす結末で幕を閉じた。
慶応二年九月
二百六十年もの間、揺らぐことのなかった徳川幕府という大樹が、静かに軋み始めていたーー。
九月、未だに暑さが続く季節。
私と千鶴は斎藤さんの巡察に同行させてもらっていた。
「だいぶ、暑くなって来ましたね……」
京の町にはだいぶ慣れた気がした。
だけども、どうも江戸と違うこの蒸されるような暑さだけには慣れない。
「……そうだな」
「熱中症には気をつけなければいけませんね……」
そう言いながら、私は斎藤さんの首元につけられた首巻へと目線を向ける。
斎藤さんは真夏だとしても、きちんと隊服や羽織を着込んでいて、首巻も何時も付けていた。
暑くないのかな……。
そう思いながら、油断のない目付きで京の街並みを見ている斎藤さんを見てから、私も京の街並みを見る。