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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第7章 混沌【土方歳三編】


「それで、松本先生……。父のことなんですけど……」

千鶴が恐る恐ると尋ねると、先程まで笑顔を浮かべていた松本先生の表情がわずかに曇った。

「……残念ながら、私も綱道さんの居場所は知らないんだ」
「……そう、なんですか……」
「松本先生も……父の居場所は知らないんですね」

二人揃って、驚く程に力のない声が出てしまう。
松本先生は頼みの綱であり、松本先生ならば父様の行方をご存知だと信じていた……。

松本先生は私たちの様子を見てから、しばらく悩んだ末に近藤さんに視線を向けた。
近藤さんはその視線に気付くと静かに頷き、松本先生はそれを見てから神妙な面持ちで、私たちに向き直る。

「君たちは、ここにいることであの薬をに関わってしまったようだね。あの薬、つまり綱道さんが新選組で行っていた研究のことについてだが……」

父が新選組で行っていた研究。
知りたくもなかったけれども、知ってしまった父の行い。

人を血に狂わせる代わりに、人間が持つ以上の身体能力と治癒能力を高める【薬】の研究。
そしておぞましい化け物を作り出していた、人がしてはいけないだろう【薬】の研究だ。

「教えてください、あの薬のことを……父が行っていた全てを」
「父が行っていた事を、私たちもきちんと知っておきたいんです……」

私たちの言葉に、松本先生は拒絶をすること無く頷いた。

「……綱道さんが幕命を受け新選組で行っていたのは、【羅刹】を生み出す実験だった。【羅刹】とは、すなわち鬼神の如き力と驚異的な治癒能力を持つ人間のことだ」
「らせつ……」
「鬼神の如き力……」

松本先生の言葉に心臓が僅かに跳ねた。
そして、松本先生から聞いた【羅刹】という言葉、ある夜に永倉さん達が話していたものと同じ言葉。

『総司……滅多なこと言うもんじゃねぇ。幹部が羅刹になってどうするんだよ?』
『ああ、羅刹ってのは、薬を飲んだら怪我も治っちまうーー』
『【羅刹】って言うのは、可哀想な子たちのことだよ』

あの夜、永倉さん達から聞いた言葉が脳裏に蘇ってきた。

「そして、その羅刹を生み出したのは、【変若水】という薬だ。これは西洋では【えりくさあ】、中華では【仙丹】と呼ばれるものに値する」
「仙丹……不老不死になる薬、ですか?」
「ああ、その通り。……つまるところ、【変若水】は不老不死の霊薬みたいなものだ」
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