第6章 宵闇【土方歳三編】
「……おい、おまえら。あいつらに狙われる心当たりでもあるのか?」
一瞬、私は声が出なかった。
正直に言えば、どうなるか……千鶴の身が危険に晒されるのではないかと思って声が出ない。
すると、私の代わりに千鶴がこたえる。
「いえ……私たちにもよく……」
私は何も言えずに俯くだけだった。
僅かに震える手を見ながら、ただ俯くだけ……。
その後、この騒ぎは別の形となって新選組の隊士の方々に広まったのであった。
「おい、侵入者がいたらしいな。幹部が雁首揃えて何やってやがったんだ?」
「……侵入者?私は聞かされていない。間違った情報なのでは?」
帰り際、三木さんと武田さんの後ろ姿を見かけた。
どうやら三木さんには情報が伝わっているみたいだが、武田さんは何も聞かされていないらいし。
「おいおい、俺が嘘を言ってるってのか?」
「嘘とは言っていない。君が勘違いをしていると言っているだけだ!本当にいたのなら、まず私に連絡があるはず。それがなかったのだから、偽の情報に決まっている!」
「……そうかよ。本当だったらただじゃすまさねえからな!」
彼らは土方さんの所へと、情報について聞きに行った。
だが、侵入者の一件は間違いだったと伝えられ、風間千景達が侵入者してきたことは幹部のごく一部だけが知ることになる。
表向きには、二条城への侵入者はいない。
風間千景達の侵入は無かったことにされたのであった。
それからのこと。
全員が警護から戻ってすぐ、主立った隊士の方々が集められて話し合いが行われた。
二条城に現れた男たち。
風間千景、天霧九寿、不知火匡……彼らが【鬼】を名乗ったさることながら、遭遇した状況から考えて、三人が薩摩と長州と関わっているらしいこと。
薩摩藩は外様藩で一番番力がある藩であり、長州は主立って幕府と敵対している朝敵とされた藩。
あの男達が藩から意を受けているのか不明だが、うかつに手を出せないと話し合っていた。
「ねえ、千尋。なんであの三人は私たちに近付いてきたのかな。しかも、あの人たち私と千尋を同胞と呼んで、私たちの姓と小太刀と刀まで知ってた」
千鶴は不安げに私に問いかけるが、私はなにもこたえない。
「私は、私たちは父様と母様の娘として生まれたごく普通の町娘の筈だよね……?」
「……うん、そうだよ」
私は、千鶴に嘘つをついた。