第6章 宵闇【土方歳三編】
その時、土方さんの刀が風間千景の髪を一房切り落としていた。
「……ほう」
風間千景は、あと一寸で切り裂かれていたかもしれないと言うのに、相変わらずの余裕の表情だった。
その顔にも目にも恐怖の色は一切感じさせない。
すると、風間千景は感嘆したような声を漏らしてからあっさりと刀を下ろして鞘に収めた。
「……何のつもりだ?」
風間千景だけではない。
天霧九寿と不知火匡もそれぞれ構えを解いて、戦いを切り上げて間合いを離していた。
「……これ以上の戦いは無意味ですな。長引いて興が乗っても困るでしょう」
「……それ、オレ様への当て付けか?こう見えても引き際は心得てるつもりだぜ。興が乗ると止まんねェのは、むしろ……」
不知火匡は笑いながら、風間千景へと視線を投げていた。
「確かに、これ以上の長居は無駄か。あくまでも今日は、真偽を確かめにきただけだからな」
「……むざむざ逃がすとでも思っているのか?」
斎藤さんの言葉に、風間千景は嘲笑うかのように微笑んで静かに囁く。
「虚勢はやめておけ。貴様らはまだしも、騒ぎを聞きつけて集まった雑魚共は、何人死ぬかしれたものではないぞ」
風間千景は微笑みながらも、音もなく退いた。
そして、闇に解けるかのように消える間際、その気味の悪い赤い瞳が私と千鶴へと向けられる。
「近いうちに、迎えに行く。……楽しみに待っているがいい」
「……誰が、待つものですか」
小さく呟けば、風間千景は微かに微笑んだ。
そして、彼らは闇に解けるように消え去ったと思えば、千鶴がその場で膝から崩れ落ちていた。
「っ、千鶴!?」
「っと、大丈夫か?千鶴」
「千鶴……、大丈夫!?」
顔色の悪い千鶴に私は慌てていれば、原田さんも駆け寄ってきていた。
「平気……です……」
「……おまえ、嘘つくの下手だな。顔、真っ青だぜ。それに、千尋の方は千鶴よりもっと真っ青だぞ。人の心配をする前に、自分を気遣え。大丈夫か?」
「……あ、いえ……平気です」
「たく、双子揃って嘘が下手くそだな。しばらく、千尋も座ってろ。歩けなかったら、俺や斎藤がおぶってやるからよ」
「……ありがとうございます……」
座っていいと言われたが、私は座るほどまだ安心が出来ていなかった。
辺りを警戒するように目を動かしていれば、土方さんと目が合う。