第5章 戦火【土方歳三編】
「あ……そういうこと、なのか……」
相馬さんが小さな声で呟いた。
すると、店主の方は明るい表情をしながらお店の方を見てから言葉をかける。
「もしよろしければ、皆さんで一服していってください。すぐにお茶を用意します」
「そうだな……それじゃあ、少し休ませてもらうか」
そう言うと原田さんは、残った隊士の方々にもお茶をご馳走になるように勧めた。
原田さんと私と千鶴、それに相馬さんにお店から熱めのお茶が振る舞われる。
隊士の方々はお店の中で、私達はお店の外にある縁台に腰をかけて熱めのお茶を飲んでいた。
ふと、相馬さんがお茶に口を付けずに俯いているのに気が付く。
「……すまない。俺は何か勘違いをしていたみたいだ」
「……いいってことさ。最初に会ったときも誤解だらけだったからな」
「いや、あの時は……まだ何も知らなくて……。今日は、わかったつもりで、本当は何もわかってなかったんだ……」
相馬さんは何処か落ち込んだ表情で、視線を地面に落としながらぽ口を開く。
「俺の藩の上役や同僚は、他人からどう見られているのか……そんなことを気にする奴ばかりだ。藩そのものだって幕府の意向を気にして波風立てようとしない。ただ、おとなしく……波風を立てないようにしているだけだ。だから、目こぼしや賄賂なんかが横行して……それすら誰も注意しない。そして保身ばかりを気にしている」
話をする相馬さんの表情は悔しげで、あの日、屯所に連れてこられて帰る際に見せた表情と同じだった。
「俺が京大阪に派遣されたのも、幕府と薩長の勢力争いを見るためなんだ。いつか……少しでも有利な側に擦り寄るためのな。」
父様から何度か話を聞いた。
幕府に仕えていても、自分たちの保身の為にどの勢力に擦り寄ろうとしている藩もいると。
本心からは仕えている人間はなかなかいないと聞いた事があった。
相馬さんは、まるで自身の藩の行動が嫌な言い方をしている。
不満というよりも、複雑な気分なのだろう……。
「でも、あんたたち新選組はちがった……。何というか……自分の信じることのために、誤解も恐れない強い志を持ってるんだな」
「そこまで買いかぶられると、少しばかり背中がかゆくなっちまうぜ。人間も藩も、数がいりゃ、ひとつひとつ考え方が違う。俺たち新選組の隊士だってそうだ」
原田さんは、相馬さんをいさめるように言葉を続けた。