第5章 戦火【土方歳三編】
時間もかからず、捕り物は瞬く間に収まってしまった。
大きな口を叩いていた浪士達だが、本気を出した新選組相手に呆気なく捕縛されたのだ。
何人かの隊士の方々が浪士達を屯所に連れていく最中の事。
往来にいた町の人たちの口からは、ため息と共に小さな声が聞こえてくる。
「これだから壬生狼は……」
「金さえ払ってれば大人しくすんだものを、こまったもんやのう……」
「店も迷惑なことだ……」
巡察をしていれば、こういう言葉はよく聞く。
隊士の方々や原田さん達は慣れた様子だけど、私は未だに慣れなかった。
原田さん達はお店や町の人たちを守っているのに……。
(それを、分かってほしい……)
捕り物が一段落した原田さんが、私達の方へと戻ってくると釈然としていない相馬さんが出迎える。
「悪かったな、こんな事になっちまって」
「なあ……俺は最初、整然と歩いているあんた達を見て、少し見直してたんだ。世間で言われている乱暴者の新選組というのは噂だけなんだと……本当は、ちゃんと京の治安を守っているんだと……。……だが、やっていることは、やっぱりその通りだったじゃないか!京の人たちだって、迷惑していたみたいだぞ!」
相馬さんの言葉に、私は眉間に皺が寄る。
原田さん達はただの乱暴者ではなく、町の人たちを守る為に乱暴になってしまっているだけ。
「では、相馬さんは不逞浪士達を黙って見逃せと言うのですか?京の人たちが迷惑になるからと」
「……それは、もっと他にやり方が……」
「先程の浪士達が、話し合いで終わると思っていたのですか?出来ているなら、こんな事はなっていなかった」
私の言葉に相馬さんが口ごもっていれば、原田さんが苦笑いを浮かべながら私の頭を軽く叩く。
「ありがとよ、千尋。……なあ、相馬。京の治安を守るってのはどういうことかわかるか?千尋の言う通り、強請たかりが目の前でやられてそれを見逃せって言うのか?」
「そういうわけじゃないが……さっきも言ったがやり方ってもんがあるだろう?」
「千尋もさっき言ってただろ?話し合いで終わると思ったかって。口で言ってもわからねえ奴等や暴力を平気で振るう奴等には、躊躇してる暇はねえんだよ。それが、京の治安を守る仕事だ。……新選組の仕事なんだよ」
「それはわかるが…陰口を叩かれてるのは気にならないのか?」