第5章 デートくらい出来ます
悟の指が、舌が。
触れてくる全ての箇所がしずくの体を刺激する。
「…はぁ…あん…悟…。」
視界が閉ざされた暗い世界の中。
悟の匂いと、その声だけが悟だと教えてくれる。
「…まだ足りない…しずく…。」
あの日のしずくはもっと乱れていた。
こんな情事だけでは、満たされたと脳が判別しない。
きっと悟は一生分からない。
あれは一夜だけの、しずくの願望だ。
最後だと思ったから、思い切り悟に抱かれたかった、10年間押し殺していたしずくの情欲だった。
何故、その切ない思いがずっと悟にあると思えるのだろう。
簡単だ。
悟がそんな事が分からない位に、誰も愛していないから。
…可哀想な人…。
別に要らない感情だから、可哀想なわけでは無い。
もともと感じないのだから、初めから無いのと一緒で、誰かに愛される事に、有難いとも可哀想だとも感じないだろう。