第3章 今夜不貞を働きます
しずくが震えた声で言った言葉に、悟は固まった。
しずくはまだこの先を望んでいるのか。
そんな事よりも、しずくとキスをした事が無かった事を。
たった今知った。
悟は流石に口元に手を置き困惑した。
10年間のしずくとの生活を振り返って覚えている限り。
悟もまたしずくとキスをした記憶は無かった。
SEXをする時も、お互い顔を見合わせながらする訳ではない。
顔を隠す様に、口元に腕を毎回置いているしずくを見て。
その腕を払ってまでキスをしようと思わなかっただけだ。
「あっでも……SEXの経験はあります。」
慌てて付け加える様にしずくは言った。
少し黙ってて。
思わずそう叫んでしまいそうだった。
今目の前に居る自分の嫁は。
貞操だけでなく、初めてのキスすらも見ず知らずの男に渡そうとしているのだ。