第14章 あなたの何者にもなれなかった
だから悟もしずくも、離れていく気配を感じながら、鮮明に思い出すのは離婚話からの日々だった。
『離婚してください。』
ーアレはビックリしたな。
でも、初めてしずくの感情に触れた日だった。
『それは僕にでも改善できる。』
『だからあなたは嫌なの。』
ため息吐いたよこの人ー。
それからのしずくとの日々は新しい事の連続だった。
初めて見せる悟の感情に、胸が痛かった。
(このまま振り返って。)
(手を伸ばしてその腕を掴んで。)
この別れを無かった事にしたい。
そんな事を思える位には、まだ痛む胸があった。
『しずく好きだよ。』
そう囁いて何度もキスをした。
しずくが自分を好きになって、離婚を後悔すればいいのにと。
『あなたを愛している。』
後悔をしたのは自分だった。