第14章 あなたの何者にもなれなかった
何でここまで悟がしずくを引き止めようとするのか。
気にはなるが、それを問い詰めたところで良い返事ではない事は分かる。
「そんな気持ちがあるなら、次のお嫁さんには優しくしてあげて。」
「僕はもう結婚なんてしないよ…一生…。」
悟にとっては、苦痛でしか無い時間だったのかもしれない。
本当は悟が他の誰かと仲良く暮らすなんて考えたく無い。
そのまま一生誰も愛さずに過ごして欲しい。
そんな呪いの様な言葉をかけるほど、そこまで嫌な結婚生活では無かった。
「……元気で。」
「………………。」
もう側でその姿を見る事は出来ないけど。
それでも無事に元気で過ごしてくれているなら、それでいい。
それだけ言うとしずくは悟に背を向けて歩き出した。
一歩一歩歩く度に、お互いの10年が思い返される。
(…本当にろくな思い出が無い…。)
苦笑いする様に、しずくは目を伏せた。