第14章 あなたの何者にもなれなかった
きっとしずくはこのまま東京に帰るつもりは無かったのだろう。
そう言った悟に、しずくは小さく頷いた。
それはとても気持ちの良い日中だった。
青々と茂った桜並木で作られた影が、2人の歩く道に敷き詰められていてた。
そんな道を2人は黙って歩いた。
いつもの様に、そこにはお互いの気配だけがある。
横に並んでいた悟の足が止まった。
数歩歩いて、悟が来ないと分かってしずくも足を止めた。
振り返って悟を見ると、少し頭を下げて足元を見ている様だ。
「僕が……しずくを愛すると言ったら、離婚はしないか?」
小さかったけど、その言葉はしずくにハッキリ届いた。
一瞬驚いたが、すぐにしずくは笑った。
「悟…人を好きになるのは努力じゃないのよ。」
愛を知らない悟らしい発言に、思わず笑ってしまった。
でも、その悟の気持ちが嬉しかった。