第14章 あなたの何者にもなれなかった
しずくはクイッと片手で涙を拭った。
「はぁ……ゲームはあなたの勝ちよ。
これで本当に、あなたが離婚を拒否する理由が無くなったわ。」
離婚話が出て、何度この泣き落としを見ただろう。
その度にため息しか出なかったのに。
今日はその涙を見ても、胸が締め付けられて息すら吐かなかった。
自分はこのしずくの涙に応えられない。
しずくの涙を乾かすのは、彼女の望んだ愛だけだ。
それが分かっているから、悟は手を伸ばした。
離婚届を受け取る為に。
無言で差し出された悟の手を黙って見ていた。
震えているのは自分の手だけで、悟はゆっくりと離婚届を掴んだ。
ーこれでやっと終わる。
長かった様な、短かった様な。
そんな10年が、この瞬間に終わったのだ。
しずくは最後の涙を流す様に、瞼を閉じた。
「……家まで送るよ…。」