第14章 あなたの何者にもなれなかった
しずくは目を伏せて、カバンの中からクリアファイルを出した。
その中には、A4サイズに折られた離婚届が入っている。
しずくの記入部分はすでに書いてあって、空欄だったのはご丁寧に悟の名前の部分だけだった。
「…悟…「それ以上何も言うな。」」
しずくの言葉を悟が遮った。
目線を上げると、目隠しの奥の目が歪んでいるのが分かった。
そんな悟の顔を見て、またしずくは眉を下げて微笑んだ。
「あなたを愛してる。」
そう言ったしずくの目から、ポロッと涙が流れた。
言われたく無かった終わりの言葉に、悟は目を瞑った。
しずくの涙は止まる事なくそのまま流れ続けていた。
「あなたが好きなの。
もうこの苦しい気持ちから解放して下さい。」
そう言ったその目は、辛そうに、懇願する様に歪んでいた。