第14章 あなたの何者にもなれなかった
「少なくとも……同じ痛みを労われるだけの存在で居ると思っていた。」
悟を想い走らせて、辿りついた自分の家で待っていたのは。
『いつもの』悟だった。
たったそれだけの事だった。
息をはずませて部屋に入ったしずくの目の先には。
いつもの様に自分に興味が無い悟の目線と。
変わらないいつもの2人の距離だった。
「…おかえり。」
チラッとしずくを見て言った悟の表情に。
その胸の痛みを分かち合おうという気持ちは汲み取れなかった。
「……ただいま…。」
しずくはそれだけ言うと、いつもの様に悟の脇を通り過ぎて、自分の部屋に向かった。
「その時初めて…私達は10年の時を一緒に過ごしても、あなたの何者にもなれなかったと知ったの。
私達はただ10年の時を過ごしただけの存在だった。」
そして、シャワーを浴びて出てきたしずくに悟は言った。