第14章 あなたの何者にもなれなかった
その時、すれ違った悟が、目隠しの奥でどんな顔をしていたかなんて。
気にする余裕すら無かった。
どうせこの人は一緒に来る訳じゃない。
そんな気持ちがあったのかもしれない。
何も言わずに部屋を出て行ったしずくに。
悟もまた声を掛ける事をしなかった。
呪に殺された人間の死体なんて、見せれるモノじゃ無かった。
だから葬儀は家族葬にした。
大切な片割れの葬いが簡素に終わっていく光景を、ただぼーっと見ていた。
不思議と涙が出ないのは、現実味の無い光景を受け入れていないからだった。
まだ拓海の声も笑顔も鮮明に覚えていて、名前を呼ばれたらいつでも振り返る様な。
そんな虚構の世界にただ1人いる様だった。
葬いの火が消えない様に、白い布を掛けられた拓海の体の横に座っていた。
何処を見ているか自分でも分からなかったけど、ふとしずくは悟を思い出した。