第14章 あなたの何者にもなれなかった
しずくの本家のある岐阜の山奥に。
西条家のお墓があった。
悟はしずくに案内されるまま、後ろ姿を見ていた。
お互い高専の制服で墓石の前に立つ。
呪術師の弔いの礼服だった。
しずくは花を手向けて、お線香に火をつけた。
その作法を悟はジッと見ていた。
「拓海くんのお墓?」
「…うん…そう…。」
拓海が死んで、悟がこのお墓に来たのは初めての事だった。
天気が良くて、気持ちのいい風が2人の間を吹いた。
「……拓海くんのお葬式に、僕が出なかったのが離婚の理由?」
悟の言葉が聞こえて、しずくは瞑っていた目をゆっくり開けた。
「………いいえ……。」
こちらを見ずに、墓石に顔を向けたままのしずくの後ろ姿に、悟は目を細めた。
その事で悟を恨む気持ちなんて無かった。
あの日。
百鬼夜行の日に。
悟もまた、大切な人を失ったのだから。