第10章 これは愛ではありません
きっとこの人は、何も理解していない。
目を伏せているしずくを見て、七海はそう思った。
それこそ、今より昔。
まだ高専に通っていた時に、関西の方で呪いの討伐の仕事があった。
当時、二級の自分としずくの2人がかかり。
それなりに重たい案件だった。
同じ階級の2人。
もうペアで動くのは嫌だった。
目の前で亡くなった同級生。
もう2度とあんな気持ちも現場も願い下げだった。
悟や傑の様に呆れて、諦めるほどの距離は無い。
お互いに背中を預けるのに、頼り過ぎず、それでも信頼を置ける距離。
相原がいなくなって、初めて同僚に背中を預けた。
その心地よさに。
目線を上げて見据えたその姿に。
七海は息を呑んで、しずくの佇まいに目を奪われた。
あの時からしずくが好きだと言ったら。
目の前のしずくはどんな反応をするだろう。
そんな昔の気持ちから、硝子の提案を受けたと言ったら…。
少しは五条悟より、自分を見てくれるだろうか。