第10章 これは愛ではありません
そもそも七海とは、昔一緒に仕事に行った事が、一回あるだけだ。
しずくは京都校と言っても、殆ど家業の仕事が多かったから、東京校との交流もそんなにあった訳ではない。
有名人の悟ですら、学生の頃は面と向かって会った事は無かった。
七海に関しては、記憶をかなり探らないと思い出せない事の方が多い。
昔から掴みどころが無くて、仕事が終われば連絡すら取った事は無い。
そんな七海が何故、硝子の作戦に乗っているのか分からなかった。
しずくの記憶の七海は、こんな事に首を突っ込む人では無かったからだ。
しずくは戸惑いながら七海をチラッと見上げた。
見上げたしずくと目が合って、七海がフッと優しく笑った気がした。
その七海の顔に、しずくは顔を赤らめて目線を外した。
『しずくは簡単だから。』
悟の声が聞こえた気がした…。
七海は気恥ずかしそうに顔を俯かせるしずくを見て、目を細めた。