第9章 とても変な夫婦関係です
グッと自分の方にしずくを向けた。
向かい合って見上げた悟の顔は、少し目を萎めていた。
「…あの日、僕は一目でしずくを決めたんだ。」
何人もの女がいる中。
たった一目見ただけで、自分の嫁になるのはしずくだと。
そう分かった。
「さっきの会場で、そんな子は居なかった。」
グッと悟の目が細くなって、掴まれている腕が痛かった。
でもそれは一瞬で、すぐに腕を離すと。
今度は悟が先に歩き出した。
それが胸の高鳴りから来た直感なら、世間では一目惚れとでも言うのだろう。
だけど悟の直感は、そんな気持ちからでは無い。
「……六眼もたいした事ないね…。」
「…居ないから、居ないって言っただけだよ。」
探す気が無いからでしょ。
そう言いかけた言葉は、声にならなかった。
その後は黙って、悟の後ろを歩いて行った。