第9章 とても変な夫婦関係です
さっさと脱衣所に向かって歩いて行くしずくの後ろ姿を見ながら、悟はため息を吐いて、自分も湯船から上がった。
「…………。」
脱いだ時と同じ様に、無言で浴衣を着る。
綺麗に浴衣を着るしずくを見て、その育ちの良さを思い出す。
あの家で、大切に育てられた女なのだろう。
まだ18歳で嫁がされて、不安だらけだったはずだ。
「…悟、帯よれてる。」
しずくは悟の帯が気になって手を掛ける。
今までだって、透明人間の様に過ごしてきた訳じゃない。
こうして気になる事があれば、お互い声をかけていた。
帯が直ると、しずくはスッと悟から手を離した。
「しずくも襟よれてる。」
しずくのうなじを見ながら、悟が言った。
本当はよれてなんかいない。
それでも悟は手を伸ばして、しずくの浴衣の襟に触れた。
「ありがとう。」
こうしていれば、普通の夫婦の様だ。