第8章 私の初恋でした
こんな綺麗な花嫁衣装を送られるより。
ただ一目悟に会いに来て欲しかったんだ。
「辞めれば?結婚。」
不機嫌そうに言う拓海に、しずくは苦笑いした。
「……辞めないよ…。」
困りはしたが、変わりに怒ってくれる拓海の気持ちが嬉しかった。
確かに不安だらけだけど。
きっと会えばこの不安を消える。
その時は本当にそう思っていた。
「本当に綺麗な花嫁さんねぇ。」
慣れない白無垢に、自分の姿が綺麗なのかも分からない。
ただ周りに褒められて、気恥ずかしくてしずくは悟の姿を探した。
たった一度しか会話をした事の無い花婿。
「あっ五条さん。」
隣に居た母親の声に、しずくは顔を上げた。
羽織袴を着た悟がしずくを見て微笑んでいた。
「しずく。」
そう名前を呼んで悟はしずくに手を差し伸べた。
その悟を見て、さっきまで寂しかった思いが全て無くなった気がした。