第7章 あなたの婚約者です
家族風呂は露天風呂だった。
ヒヤッとした脱衣所で、しずくは服を脱いだ。
狭い脱衣所は、体の大きな悟と一緒だと、簡単に触れてしまいそうだ。
こうして一緒に温泉に入るなんて思わなかったから、少し気恥ずかしかった。
お互いに軽く体を洗って温泉に入った。
「しずく、もうちょっとこっち来て。」
遠慮がちに温泉に入って来たしずくに悟は言った。
しずくの腕に触れると、悟は自分の方にしずくを引き寄せて、後ろから抱き締めた。
でもそれだけで、悟は別に不用意に体を触ってくる事は無かった。
ただのスキンシップだ。
あの悟がただのスキンシップをしてくるのには戸惑うが。
「……今日だから、僕があのふざけた時間を断らないと思った?」
「……うん……。」
何だ、やっぱり悟は知っていたんだ。
「誕生日おめでとう。」
10年間1度も言われた事の無い言葉だった。