第7章 あなたの婚約者です
旅館の情緒すら、2人では語り合えなかった。
とても素敵な園庭を2人で見ながら歩いていた。
スポットライトも綺麗で、それすら悟と共有したかった。
でも無言で、見ている同じ風景すら共通の言葉は無かった。
イルミネーションが綺麗だね。
スポットライトが幻想的だね。
語り合う言葉は沢山あったと思う。
確かなのは同じ風景を、チラッと見ても、無言の2人の空間だった。
無言でその風景をただ見ながら歩いていた。
『悟、あの柳がスポットライトで綺麗だよ。』
そうたった一言がしずくから言えたのなら、しずく達の関係も変わっていたのかもしれない。
それは充分分かっていた。
悟はしずくが感じた感受性なら同じ様に同調しただろう。
2人で見た園庭が綺麗だった。
たったひと言呟いたなら、2人の関係は全然違っていたのかもしれない。
そう分かっていながらも、長い通路を2人は黙って歩いた。
見ている風景は全く同じなのに…。