第12章 12月12日の火曜日
「な…ん…でッ……、まだ…
捨ててくれるとか…質屋にでも…
入れてくれてたら…良かったのに…」
なんで…、なんで…?…なん…で?
どうしてなの…? なんで?
「何でよッ!…何で…なんでっ…
あの…人が…あの人が…
あの指輪…を…してるのよ…ッ」
自分が…彼に…プレゼントされて
3年間大事にしていた指輪を…
私が見間違えるはずなんて…なくて…。
まだ…そんな事をされるぐらいなら。
まだ、あの場でゴミ箱にでも
窓の外にでも
投げ捨てて置けば良かった…のに。
車に戻って、運転席に座って
ぎゅうう自分で自分の身体を抱きしめる。
震えてる…のが…分かった。
巴が…ハッとして…、
自分の身体を抱きしめていた腕の
緩めて、自分の左手の薬指を見る。
そこには…、彼から贈られた
プレゼントの指輪が
輝いているのが見えて。
ブンブンっと巴が、
自分の頭を振ると。
グッと力を入れて瞼を閉じて。
滲んでいた涙を抑えて堪えると。
ゴソゴソと自分のバッグから
スマートフォンを取り出して。
妹である千冬に電話を掛けた。
千冬は…今はパートで仕事をしてて
大和のこども園のお迎えに
間に合う様に時短で働いてるから。
この時間なら…
電話が千冬に繋がるはずだ。
「あ、千冬?ごめんね?突然
電話しちゃって、
今度の土曜日の事でね
千冬にお願いしたい事があるの…。
千冬のメイクの腕前を…見込んでの
お願いがあるんだけどね?」
『なに?
どうしたの?巴姉…?』
私がLINEじゃなくて、
直接電話して来るのが
珍しいからなのか戸惑ってる様子で。
「今度の土曜日…なんだけどね?
詐欺でも嘘でも…何でも良いから…。
その土曜日だけ…で良いの、
私の事を…可愛くしてくれない?」
『ああ、生田君の仕事場の人に
顔見せするからって事でしょ?』
「違うの…そうじゃなくて…ね…、
どうしても…あの人に…、
惨めでみっともない女だって
思われたくないの…だから…ッ」
『え?ちょっと…巴姉?
私に分る感じに話してくれない?』
今こんなお願いを私がしている
経緯を…妹である千冬にすると。
『何それ?ヤバッ、
面白い事になってるじゃないッ!
めっちゃ、テンションが
爆上がりして来たんだけど?』