第66章 先月の話……
目の前の…光景が…
テレビドラマか恋愛映画の…ワンシーン?
と言うか…これは現実?と
見えている光景が…現実味が無くて。
どこかの女優さんと俳優さんの
キスシーンにしか見えなくて。
自分の彼である港斗君だって、
頭がそれを認めてしまう事を拒絶して
これは夢か何か?と…
見ている光景の処理が…巴は
全然…できないで居て…。
でも…今感じてる…この…感情と
似た感情を私は知っていて…、
そう…あの時…あの時に…、
雄介さんが…あの…森園って人と…
車の中でキスをしてたのを見た時…
その時と…同じ状況だって……。
その時の事が一瞬で映像が駆け巡って
フラッシュバックして来る。
その後は…正直……自分でも…
自分が…何をどうして、何を言ったのか…
自分でも…訳が分からないけど…。
彼の身体から…紫苑さんを引き剥がして。
「……わッ、私の……
港斗君に触らないで下さいッ!!」
そう…廊下どころか…
家の中に響く声を出してしまったので。
ガチャと…港斗君の隣の部屋の
弟の奏多君も…下の階に居た
彼のご両親の亜希子さんと
浩輔さんも…慌てた様子で集まって来て。
バツが悪そうにしながら、紫苑が
そのまま何も言わずに無言で、
下の階に階段で降りて行ってしまった。
『……ごめん、もう…、
…大丈夫……だから…』
ぎゅっと…こっちの身体を
強く抱きしめたままで
彼が集まって来た家族にそう言って。
そのまま…彼の部屋の中に引き込まれる。
港斗が部屋のドアを閉めようとした時、
父親である浩輔と視線がぶつかって。
浩輔が何も言わないままで、
港斗に対して”あっち”と合図をして。
そのまま心配そうにしている
亜希子の肩を抱いて階段を降りて行った。
バタン…と彼が自分の部屋のドアを閉めて
ガチャと…部屋のドアにカギを掛ける。
『巴さん…さっきの…』
さっき彼が…紫苑さんとしていた話を、
どこまで聞いていたのかと…
彼は…こっちに聞きこうとして来て。
何も聞いてないと…フルフルと
巴が高速で首を左右に振った。
『……聞いて……、巴さんが
いい気分になる話じゃないですよ…?』
「いいの……ッ…、ぎゅってして…て…」