第17章 "彼女"の正体
私がお姫様なら──
王子様は助けにきてくれる・・・?
私が眠ったら──
キスで起こしてくれる・・・?
私が殺されたら──
ジンは・・・・・・悲しんでくれる・・・────?
薄れていく意識の中、スマホが震える音がして。
首を絞めているピンガの手が僅かに緩んだ。
「はァ・・・何の用だ?キール。・・・・・・あァ?」
キール・・・・・・!
彼女に聞こえるように声を上げたい。
でもそんなことをしたら、本当に殺されかねない。
キール・・・・・・ピンガに何の用件だろうか。
耳を澄ましても、話の内容までは聞こえない。
ジンは・・・・・・近くにいるの・・・・・・?
「そーかよ・・・チッ。へいへい、やればいいんだろ、やれば。・・・あー、そうだ。ジンも来るんだろ?」
「っ・・・!!」
「あ?ミモザ?あァ・・・ククッ。今からお楽しみなんだわ。じゃあな、キール」
挑発しているつもりなのか・・・意味深な発言を残して通話を終える。
ふ・・・と気がつくと、いつの間にか苦しかった呼吸が楽になり、両手の自由も戻ってきていた。
「っ、けほ・・・けほっ・・・」
「・・・お姫様、仕事だとよ。2日後の夜・・・ドイツ、フランクフルトでな」
「・・・・・・ドイツ?」
「説明は後だ。さっさと用意しろ、すぐ出発する。フン、お楽しみはお預けだな」
着替えてこい、と部屋を追い出されて。
一気に力が抜けて膝から崩れ落ちた。
この短時間に起こった出来事を頭の中で整理したいけど、上手く働かない。
グレースの正体が・・・・・・ピンガ・・・────
やっとのことで見つけたと思ったら、息つく暇もなくピンガとの任務。
ジンも来るって言ってた、よね・・・。
会えるだろうか。
早く・・・・・・会いたい。
彼からの着信が残ったスマホを抱きしめた。
自分からピンガの香りがして、ザワザワと胸騒ぎがする。
ジンの香りが恋しい。
力の入らない足に鞭を打ち、ドイツへ向かう準備を急いだ。