第17章 "彼女"の正体
「あ?あぁ・・・変装のこと言ってなかったか?ミモザって女とは顔合わせた。ハッ・・・、可愛がってやるから心配すんなってジンの野郎によろしく言っとけよ、じゃあな」
通話が終わると共に溜息が漏れる。
────誰の・・・声・・・?
聞き慣れない男性の声で意識が薄っすら戻ってきた。
ここは、どこだっけ?
確か・・・グレースの部屋に呼ばれて紅茶を貰って・・・・・・。
グレースの・・・・・・笑顔が・・・────
フッと現れた影に心臓がドクンと嫌な音を立てた。
先程見たものと同じ、口角の上がった口元の先には・・・
「よォ。お目覚めか?お姫様」
「ッ!!・・・・・・ピン・・・ガ・・・・・・」
金髪のコーンロウ、左耳にリング状のピアスが2つ。
私を見下ろす人物はグレースではない。
パシフィック・ブイに潜入する目的となり、探しても見つからなかったピンガ本人だった。
女装しているとは想像しておらず、まさかの出来事に息が詰まる。
グレースのヘアスタイルの時は隠れていた、吊り上がった眉毛に鋭い目付き。
これだ。
潜入してから感じていた視線と合致した。
この人が・・・・・・ラムのお気に入りだという、ピンガ・・・・・・。
「男の部屋にホイホイ来るもんじゃねェぞ、お姫様。あ、さっきまで女の部屋だったか」
「な、に・・・・・・その、呼び方・・・・・・」
「大事な大事なお姫様なんだろ?ジンの野郎の・・・。しつこいほどスマホ鳴ってたしなァ」
ほらな、と見せられたスマホの画面にはジンからの着信で埋め尽くされていた。
"ジン"の文字を見るだけで胸がキュッと締め付けられる。
ねぇ・・・・・・何で、今なの・・・?
出られない状況の時に、こんなにも連絡をくれるなんて。
「返して・・・・・・!!」
目頭が熱くなるのを必死に堪え、手を伸ばそうとしてやっと気が付いた。
拘束されている。
後ろ手に縛られていてスマホを取り返すことができない。
私のその姿に、ピンガは舌舐めずりをしながら顔を近付けてきた。