第16章 気になる視線
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「いらっしゃ〜い!待ってたわ。お茶淹れるから座って?」
「ありがとうございます・・・お構いなく・・・・・・」
約束通り21時にグレースの部屋を訪れると、彼女はいつもの笑顔で迎え入れてくれた。
綺麗に片付いているシンプルな部屋。
遠慮がちに1人掛けのソファに腰を掛ける。
・・・何を話せば良いのだろうか。
とりあえず彼氏のことを聞かれたら、適当に流して彼女の方へ話を持っていくことにしよう。
仲良くしておけば今後協力してもらえる可能性もある。
くっつき過ぎず、邪険に扱わないように・・・・・・
グレースに視線を移すと、ちょうどカップを持ってこちらへ来るところだった。
「お待たせ。もう、そんなに緊張しなくて大丈夫よ〜!これ飲んでリラックスしてちょうだい」
「いい香り・・・ありがとう、いただきます・・・」
向かいに腰を掛けたグレースがカップに口を付けたのを確認してから、自分もコクっと口に含む。
紅茶の甘い香りが口内にフワッと広がり、不思議と気持ちが落ち着いたような気がした。
「少し表情が和らいだわね。突然誘ったから警戒したでしょ?ごめんなさいね」
「いえ、そんなこと・・・。こんな風にお茶するのは久々で・・・ドキドキしちゃいました」
「ふふ、素直で可愛い子・・・。喧嘩してる彼氏なんか忘れて、ここで新しい男を見つければ良いのに!コーンロウの男性を探してるんでしょう?」
「その人は別に・・・・・・!」
あれ?
そういえば私・・・・・・コーンロウの人が男性だと、グレースに伝えた・・・?
"その男性と知り合いなの?"
カフェで質問した時、彼女にこう聞き返された。
コーンロウの女性も多くいる中で、迷いなく"男性"と発言していた。
なぜ・・・────
「グレース・・・・・・あなたは・・・・・・っ!」
「ん?どうしたの?」
突然襲ってきた眠気。
ガチャンと持っていたカップを落としてしまった。
頭がクラクラして目が霞んでいく。
その時、スカートのポケットでスマホが振動していたが身体が言うことを聞かない。
「おやすみなさい」
「っ・・・・・・」
瞼が閉じる前に見えたのは、口角の上がったグレースの口元だった。